科学エッセー(35)体型や体力指標の法則性

ヒトの体型や体力を評価するために各種の指数が用いられている.その多くは、理論的に合致する指標と理論的には問題があるが、利便性から考えると使い勝手がいい指標がある.前者を理論則と言い後者は経験則と呼ばれている.

 

古くから体型に関する分類法がある.例えば,ヒポクラテスは視覚的に卒中体質(短く太い体型)と結核体質(長く細い体型)に分類した.クレッチマーは肥満型,闘士型,痩身型,シェルドンは内肺葉型,中胚葉型,外肺葉型のそれぞれ3つに分類した.

 

スポーツ科学の進歩に伴って、視覚的だけでなく身長と体重の比率を数量化(客観化)するようになった.例えば,体型指数として,①比体重(体重/身長),②カウプ指数(体重/身長2)=(Body Mass Index: BMI),③ローレル指数(体重/身長3)等が用いられた.

 

体重は身長の一乗,二乗,三乗のいずれとも比例するが,相関係数(r)からみると③≥②>①の順序になる.さらに,体重は容積(体積)であり身長が長さの単位であることから,身長の三乗で体重を除するのが理論的に正しい.従って,③の式で求められるべきである.

 

しかし,現代では男女とも体重を身長の二乗(面積)で除したBMIが国際的に用いられている.BMIは18.5(痩身)≤正常値≤ 25.0(肥満)と評価されている.ではなぜ理論則の③でなく,経験則の②が採用されたのだろうか.

 

BMIは1869年にベルギーのケトレがスコットランド兵士6000人と,フランス人志願兵10万人のデータから②の身長の二乗(面積)で体重を除す経験則を提案した.そこで筆者はこの原因(理由)を追究したが見当たらなかった.

 

そのことを忘れかけた時、偶然にも黒木登志夫著の『健康・老化・寿命』(中公新書)に出くわした.黒木はBMIを用いた理論的根拠を追究したが、わからないと結論し,「肥満係数としての信頼性に加えて,得られた数値が覚えやすく使い易い20~30程度ということもあったのであろう」とみなした.

 

そこで筆者は,実際に2つの式(②と③)を用いて計算し比較した.そして,体重と身長の二乗も三乗も相関係数に大きな違いがなく,しかも身長の三乗で体重を除した時の値が著しく小さく,個人の体型特性の評価が難しくなること,また,電卓もない時代に身長を三乗して体重を除す労力と時間を考慮すると,簡便な身長の二乗を採用する方が利便性・汎用性が高いと考えた.

 

生物学界では,動物の代謝率のスケーリングに関して1世紀以上論争が続いている.1879年ドイツのメーは,「からだの密度が均等だと仮定すると全身(体積)で生成される熱は,体表面積(体重の2/3乗)から失われる熱に等しくなる」ことを発見した.

 

その4年後にドイツのルブナーは,犬(3~30kg)の代謝率が体表面積の大きさに比例することを実証し,安静代謝量=定数×体重2/3のアロメトリー式(理論則)を導き出した.

 

その約40年後にカリフォルニア大学デービス校のクレバーが大小の動物(16g~600kg)では2/3乗よりも3/4乗が望ましいと言う経験則を発表した.1982年には同じデービス校のホイスナーが,クレバーの被験体が26種類の動物から導き出されたもので,同じ種の動物であれば2/3乗が理論的に正しいとした.この考えは約100年前のルブナーの理論値を支持するものであった.

 

この論争は現在も続いている.我が国で1990年代にベストセラーにとなった本川達雄著の『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)は, 3/4乗説をベースに生体の不思議を解説したものである.

 

持久性の体力指標である最大酸素摂取量(VO2max)は体重1kg当たりの相対値(ml・kg-1・min-1)が用いられている.しかし1916年にドイツのノーベル賞博士クローや1925年にヘンダーソンたちは,VO2maxは体表面積当たり(2/3乗)で算出すべきだと指摘している.

 

一方,1923年にイギリスのノーベル賞博士のヒルや1937年のロビンソンなどはVO2maxの絶対値はL・min-1,相対値はml・kg-1・min-1を用いることを推奨した.すなわち,前者が理論則で,後者が利便性を重要視した経験則である.

 

絶対値のVO2maxを体重1kg当たりで除すためには,絶対値のVO2maxと体重がどこまでも比例関係を保つと仮定しなければならない.しかし,子どもから大人までの間に,体重は思春期に著しく大きくなるがVO2maxがそれに比して大きくならないため比例関係が弱くなる.

 

また,各種のスポーツ選手のVO2maxを比較する場合には,柔道や相撲選手などが加わると、体重が重い割にVO2maxが高くないために比例関係が弱まる.従って,絶対値のVO2maxの大きさに比べて,子どものVO2max(ml・kg-1・min-1)は大人よりも相対的に大きく,また体操選手のVO2max(ml・kg-1・min-1)は柔道選手に比べ相対的に大きくなる傾向がある.

 

VO2maxを体重1kg当たりで比較するとこれらの矛盾が生じる.それでも,一律体重1kg当たりのVO2maxで比較する方が計算上利便性に富む.

 

 

このように理論値よりも経験値が優先されたのは,電卓やコンピューターが開発されていない時代に計算の難しさや計算された数値の親しみやすさなどが優先されたためだろう,と判断した.

 

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山地 啓司

1965年卒 立正大学法制研究所特別研究員 
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