科学エッセー(28)日本陸上界における二世選手の活躍

近年の日本のスポーツ選手の中で、大坂なおみの活躍はひときわ輝いている.

彼女は日本生まれの米国育ちの二世である.

2018年の全米オープンと19年の全豪オープンの2大会に連続優勝し,一気に世界ランキング1位へ上り詰めた.

 

豪快なサーブやストロークは日本人離れした速さと正確性がある.

2018年のすべてのジャンルの中で「世界で最も影響力がある100人」にも選ばれ,「実直で礼儀正しく,控えめなテニスの女王で,グローバル化する将来を象徴するヒトは他にいない」が受賞の理由である.

 

日本人離れした大きなからだとパワー,日本人的な謙虚さと豪快さを父親と母親から受け継いだことで成し遂げた偉業である.

 

かつて日本のスポーツ選手は欧米選手に比べてきゃしゃで小柄な体格が目立ったが,最近世界のスポーツ界で活躍する日本選手の体格が向上していることに驚く.

例えば,アメリカの国技とも言われるバスケットボール(NBA)のグリズリーズで活躍する渡辺雄太や米国の強豪ゴンザカ大の主力として活躍する八村塁は他の米国選手と遜色のない体格と運動能力を持っている.

 

大正から昭和にかけて,欧米人に比べ貧弱な日本人の身長・体重等の体格に関する具体的改善案が議論されている.

当時の改善案の中で最も興味深いのは吉田章信(1925)の“人種改造論”である.

この改造論は,からだの小さい日本人とからだの大きい外国人が結婚することによって,体格的に優れた子どもを誕生させるという妙案である.

 

時代が変わって今日のグローバルな社会では,日本の若者は当たり前のように外国人と結婚し、多くの二世が誕生している.

そんな二世の中に,スポーツ選手に必要な日本人的性格(勤勉さ,緻密性,粘り強さなど)と外国人的性格(大胆さや明るさなど),さらに外国人が持つ体格の良さと筋力やパワーなどの精神的・体力的・形態的能力に優れた子供が生まれてきても不思議ではない.

そんな日本人二世を陸上界で拾ってみよう.

 

陸上界でその筆頭は、ハンマー投げの室伏広治と由香の兄・妹である.

父親(重信)は日本選手権ハンマー投げで10連覇の偉業をなし,32年経た今日でも歴代2位(75m96)の座を守っている.母親はルーマニアのやり投げ選手だった.

 

息子の広治はアテネ五輪の金メダリスト,ロンドン五輪の銅メダリストで,2014年の日本選手権で20連覇を成し遂げた日本を代表するアスリートである.

もちろん、現在の日本記録(84m86:2003年)保持者でもあり,歴代2位の父親を大きく引き離し、当分破られそうもない大記録の持ち主である.

現在は日本陸連とJOCの理事として日本スポーツ界を牽引する立場で活躍している.

 

妹の由香は、現役時代にハンマー投げ(67m77:2004年)と円盤投げ(58m62:2007年)の第一人者として活躍し,現在の日本記録保持者でもある.

 

その他,日本陸上界の2018年末で歴代50傑に入っている二世選手は表1の通りである.

男・女にみられる特徴的な傾向は,

  1. 短距離種目(男子:66.7%,女子27.3%)とフィールド種目(男子25.0%,女子72.7%)に多い
  2. 高校生や大学生など若い選手が多い

ことである.

短距離やフィールド種目はいずれも強力なパワーが求められる.

中でもハードル種目や投てき種目はスピード,筋力,パワーに優れ、上・下肢長が長いことが望ましい体型・体力である.

これらの特性は外国人から多く受け継いだものであろう.

 

その一方で,長距離種目では2018年末までに50傑の中に選手が見当たらない.

強いてあげるならば,高校駅伝等で活躍した高松智美ムセンビ(名城大)と高松望ムセンビ(薫英女子高)の姉妹である.

姉は5000m(15分16秒76),3000m(8分56秒63)で歴代21位,妹は3000m(9分01秒58)で歴代35位である.

この姉妹は日本人選手に比べても身長が低いので,将来どこまで伸びるか未知数である.

 

遺伝(先天)的要素は個人の潜在的限界を示し,この潜在能力をどこまで顕在化するかは環境(後天)的要素に負うところが大きい.

従って,陸上競技では上・下肢長が長く,強力なパワーやスピードに優れていることが大きなパフォーマンスを得るために有利であることから,投てきや短距離種目では今後二世選手が多くなるにつれ活躍が期待できるであろう.

 

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山地 啓司

山地 啓司

1965年卒 立正大学法制研究所特別研究員 
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