隙を見せない中国の強さ

(この記事は2016年8月のリオデジャネイロ五輪期間中に執筆されました)

「獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす」という。卓球で他国を圧倒する中国勢の戦いぶりから、この言葉が頭に浮かぶ。

 

女子シングルス準決勝では、1ゲームも落とさず勝ち上がっていた好調の福原愛が、ロンドン五輪金メダリストの李暁霞に圧倒された。ゲームカウント0―4、試合時間はわずか24分だった。試合前「ここまでいい試合ができている自信がある」と語っていた福原が、手も足も出なかった。「今まで対戦した誰よりも重いボールを打たれた。自分の力は出し切ったが、本当に実力の違い」と完敗を認めるほかなかった。

 

男子準決勝で昨年の世界王者、馬龍と対戦した水谷隼も立ち上がりから一気に3ゲームを先取された。追い詰められながら2ゲームを返し、6ゲーム目には壮絶な打ち合いを演じたが、再び流れを奪われて勝利をつかめなかった。「(ゲームカウント)0-3になった時点でかなり厳しいと感じたが、最後まで諦めず接戦ができてよかった」と振り返ったが、試合の主導権は最後まで馬龍が握っていた。

 

シングルスの決勝は男女とも中国勢同士の対決。女子は前回銀メダルの丁寧(てい・ねい)が雪辱して「またすぐに団体戦が始まる。今度は力を合わせて、また金メダルを取る」とあくまでも貪欲だった。

 

この強さはどこから来るのか。中国は1960年代に入ると、男子の荘則棟らが台から離れず速いテンポで攻撃する「前陣速攻」で世界を制覇。五輪競技に加わった88年のソウル大会以降のロンドン大会までの全28種目中24個の金メダルを獲得し、この大会でも男女シングルス、団体の全4個の金メダルを独占した。

 

競技人口は一説によると3000万人、愛好家は2億人とも3億人とも言われる国民的スポーツだ。国内での競争は激烈を極め、代表を外れた選手たちは国外に移住して新しい国の代表になって国際舞台に登場してくる。世界選手権ではシングルスの1回戦を終えると、勝ち残った半数は中国代表と元中国人選手だといわれるほど世界中で活躍している。

 

代表には対戦相手国の主力に似たタイプの選手が用意されているという。レギュラー選手は日本が相手なら「福原愛タイプ」や「石川佳純タイプ」のパートナーと打ち合って、じっくり戦略を練るのだという。多彩な福原のショットがことごとくはね返されたのは偶然ではない。

 

男子シングルスを制した馬龍は「毎試合が決勝のようなもの。選手の実力も拮抗(きっこう)しており、試合ごとに丁寧に戦っていくだけ」と話していた。13億人の期待を背に負けられない中国選手も、想像を絶する重圧の中で戦っていたのだ。

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船原 勝英

1974年度卒 筑波大学陸上競技部OB・OG会幹事長 
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