魔法のシューズがスピード駅伝の秘密

魔法のシューズ”が支えたスピード駅伝 履かないと勝負にならない究極アイテム

今年の箱根駅伝では10区間中7区間で区間新記録が生まれ、延べ13人が従来の区間記録を上回る空前の高速レースになりました。

無風で絶好のコンディションに恵まれたとは言え、青山学院大の総合10時間45分23秒の記録は前年の東海大の大会記録を6分46秒も短縮。

連覇を阻まれた東海大の両角速監督が「11時間50分を切っても勝てない時代になった」と述べ、スピード化が止まらない箱根の現実を受け止めていました。

 

各校のトレーニング内容は確実に進化していますが、学生たちにこれほど多くの記録が出せる力があるとは思えない。

元箱根ランナーで取材経験豊富なスポーツライター、酒井政人さんによると、20km区間なら1分程度は記録が良くなっている感覚なのだといいます。

 

区間新連発の最大の要因は、関東学生連合を含む出場210人中178人、約85%が履いたナイキのピンクシューズの威力です。

厚底のクッションが効いて、ゴール後の脚へのダメージが全く違うのだそうです。

さらに、埋め込まれたカーボン製のプレートがキックの際にバネの働きをし、身体を前へ前へと進めてくれる。

 

“靴のドーピング”ともいえる魔法のグッズの出現で、選手たちのフォームも機能を生かす形に変わってきています。

少し前傾してフォアフットで(つま先側から)接地し、弾むように前へ前へと足を運ぶ。

特に、山下りの6区では不可欠の技術になっている。青山学院大の選手たちが終盤まで粘り切れたのは、“シューズの助力“があったとみるべきでしょう。

 

1足3万円以上と高価で耐久性がないので、最近では割安な練習用まで開発されている。

それでも、予選会から履いている筑波チーム(レギュラー級20人)のシューズ代が本大会までに軽く200万円を超えたそうです。

しかし、この「魔法のグッズ」を履かない手はない。

 

ミズノ、アシックスの関係者は頭を抱えています。

ナイキの独占を阻むために研究に取り組んでいるそうですが、現状を覆すのは不可能に近い。莫大な開発費用を投入し、ビッグデータを活用した究極の製品。

日本のメーカーが誇る「職人の経験」では勝負にならない時代になっているのです。

「マラソン2時間切り」を果たしたキプチョゲを前面に押し立てたナイキのプロモーションは、世界中で絶大な効果を生んでいます。

 

各校ともスポーツ用品メーカーとユニフォーム契約をしていますが、シューズ着用の義務はないそうです。

青山学院大や明大の選手の大半が、前年までは契約メーカーのアディダスのシューズを履いていたのが、今回はナイキに乗り換えた。

前回17位から5位へ躍進した明大、1年で王座を奪回した青山学院大が大きなアドバンテージを得たのに対し、前年も履いていた東海大、東洋大の優位性はその時点で失われていました。

 

予選会からナイキを履いた筑波大も恩恵を受けたチーム。

1区の西は10000mの持ちタイムが29分27秒45ですが、往路の先頭集団は10kmを28分半以内の通過でしたから、西は自己ベストより1分近く速いペースに食らい付いたわけです。

「ペースが速いと思ったが、付いていかないという選択肢はなかった」というのが本人の弁。

 

9区の川瀬をはじめ筑波大も全員がナイキで出走

 

沿道の大観衆からの声援、極限までの緊張と興奮の中で放出されるアドレナリン、スピードを支えてくれる厚底のシューズ…。

日常を超越した異次元の舞台でしか発現しない人知を超えたパフォーマンスになったのでしょう。

しかし、本戦ではほぼ全チームが履いていたので予選会のような優位性はなく、20チーム中20位の成績は順当だったかもしれません。

競泳の高速水着が水泳界を席巻し、最終的には使用禁止となった近い過去の騒ぎを思い出します。

ナイキのシューズに関しては、世界陸連が近く調査に乗り出すそうです。

使用の可否は各校の箱根戦略にも影響を与えるでしょうが、もはやこのシューズなしでは戦えなくなっているのが現状。さてどんな結果になるのでしょうか。

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船原 勝英

1974年度卒 筑波大学陸上競技部OB・OG会幹事長 
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