ゴールデンエイジがメダルに
(この記事は2016年8月のリオデジャネイロ五輪期間中に執筆されました)
体操男子種目別の跳馬で19歳の白井健三が銅メダルを獲得した。この種目では昨年の世界チャンピオン。初出場の五輪で、団体総合では自信を持つ床運動、跳馬で金メダル獲得に貢献。元体操選手という両親のもと、幼い頃から体操に親しんできた白井が種目別では自力で銅メダルをつかんだ。
前日の種目別床運動。昨年の世界選手権を制するなど、最も得意とする種目で着地が乱れ、4位にとどまった。本人は「やり切った」と感じたが、自分のこと以上に残念がってくれた内村航平の気持ちが火を付けた。1本目に新技の「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」に果敢に挑み、着地で左足が1歩前に出たものの、全体トップの「15・833」をたたき出した。やや難度を落とした2本目は得点が伸びず、金メダルには届かなかったものの、メダルは死守した。
「ひねり王子の」の本領発揮とはいかなかったものの、日本から駆け付けた両親の前で堂々の演技を披露した。父親の勝晃さんは「子どもの頃からすべての試合を見てきているが、いい時もあれば悪いときもある。また別の舞台でやってくれると思う」と末っ子の初舞台に納得の様子だった。
白井の両親は横浜市で体操教室を経営している。2人の兄の影響でよちよち歩きの頃から体操に親しみ、5歳の時には資格がなかった小学生の大会へ特別に出場し、兄を上回る演技をして驚かせた。練習器具のトランポリンで跳びはねるのが楽しくてしょうがなく、疲れ切ってそのままトランポリンの上で眠ってしまうこともあったという。
エースの内村も同じく体操教室を営む両親に育てられ、幼児期からトランポリンで空中感覚を磨いて「空中でどんな姿勢になっても常に地面が見えていて、どちらの方向に降りればいいか分かっている」のだという。技を1度見ただけで、愛用していた「ピンクパンサー人形」でその技を再現できたというから凄い。現在の日本代表クラスはほぼ例外なく幼稚園に通う前から体操クラブで感覚と技を磨いてきている。
スポーツでは「ゴールデンエイジ」という技術習得には非常に重要な年代がある。神経系統の発達がほぼ完成する9~12歳ごろで、動きの巧みさを身に付けるには最適の年代。その少し前、6~8歳を「プレ・ゴールデンエイジ」と呼び、この年代では頭で動きを考えるのではなく、見たまま、イメージしたまま体で動きを習得できてしまう。
この時期の子どもは楽しいことや興味のあることには夢中になるが、面白くないとすぐやめてしまう。人一倍の才能があった内村や白井は、空中で跳びはねるのが楽しくて仕方なかった。これはテニスの錦織圭や卓球の福原愛たちにも共通していたことだろう。幼くして自分が夢中になれることを見つけたことが、メダルにつながったのである。