陸上競技のルーツをさぐる54

「円盤投」の歴史<そのⅡ>

「円盤」を投げる投てき場の「バルビス(balbis)」について

円盤の投てき場は「バルビス(balbis)」と呼ばれました。ローマ時代の前3世紀当時、続々と誕生した英雄たちの競技の様子をフィロストラトスが書き残しています。

アポロンが投げた円盤に当たって死んだハイアキントス(=ヒアシンス)の死については「バルビスは狭くて1人分の余地しかなく、後方を残して仕切られている。右脚の体重を乗せて体の前部を前傾させ、それによってもう一方の脚から体重が抜けるので、その脚は前方に振られ、それに付随して右手も振り切れることになる」と記述されています。

「円盤の投者は頭を右に曲げ、自分の右側を一瞬見るような姿勢で身をかがめ、ロープ回しをするような振り方で投げ、自分の右側のすべてを投力に転換して円盤を投げる」などと叙述されています。恐らく前回示した写真①の「ミュロン作のディスコボロス像」を見て書いたのではないかといわれています。

投てき場の「バルビス」は前方と両側を仕切られていましたが、後方は選手の好みによってステップできるよう区切られてはいませんでした。競技場内では「バルビデス(balbides)」と呼ばれる石板の線から、「円盤」や「やり」を投げたと考えられます。

古代ギリシャ競技における「円盤投法」

古代ギリシャ競技での投法については、今日に残る宝石・貨幣などに彫り込まれた選手の姿や「像」などから想像すると、現代の投法とは幾らか違っていたことがわかります。ただし、当時のフォームを正確に描き出しているかどうかは疑問の余地があり、古代の円盤投法がこうだったと決めつけるわけにはいきません。

投げた距離を計るには「バルビス」から円盤が地面に落下した地点まで<写真①参照>ですが、競技者が「前方の線」を踏み越えた場合は「無効」となったのは今日と同じ。記録が有効になるのはスタジオンの横幅の範囲に限られ、この範囲外に落下した場合は「無効」。円盤の落下地点に標識の「杭」が打たれたのは、「走幅跳」の時と同様でした。

近代陸上競技における「円盤投」

「古代オリンピア競技」は、ローマ時代の前393年の第293回大会を最後に消滅しました。当時の「五種競技」の1種目だった「円盤投」は、ギリシャ人が古代競技の復活を願って1870年にアテネで開いた第2回の「Olympic Games」でも採用され、なんとか命脈を保っていました。しかし、近代陸上競技の主流であった英米両国でも「円盤投」はほとんど行われず、注目を浴びることはありませんでした。

大きな転機になったのは、1896年にP・クーベルタン男爵が中心となってアテネで復活させた「第1回近代オリンピック」でした。大会を盛り上げるため、開催地アテネ由来の「マラソン競走」と、古代競技で馴染みがあった「円盤投」が加えられたのです。

ギリシャの大会関係者は五輪開催にあたり、外国選手に出場してもらって「円盤投」を再現させました。この時に優勝したのは20歳のR・ガレット(米・プリンストン大主将)で、記録は29m15でした。

この時の「円盤」は古代競技で用いられた金属製ではなく、胴体が木製で中心部と縁が鉄製。一辺2m50の「正方形の投てき場」から投げました。重さは古代競技場跡から発掘された数多くの「円盤」の重さの中間値を採用。この頃からフランスが「地球の大きさを基準とした」『CGS単位』(メートル法)を使用したこともあって「2Kgの円盤」が誕生。「やり」の重さも800gと決められました。

陸上競技の大半の種目が英国でルール化されたため、距離、重量などの基準は「ヤード・ポンド法」換算で端数の出る数字になっている中、数少ない切りの良い数字になっているのはこのためです。

(以下次号)

写真の説明と出典

  • 「アッチか赤絵式キュリックス型盃に描かれた円盤の飛距離を計測している図」『Athletics of the Ancient World』E. Norman Gardiner D. Lit 著 (1930 )  p157(Ares Publishers Inc. Chicago)
  • 「同上盃に描かれた、古代競技における円盤投のスタンスと準備動作の様子を描いた図」

『同上書』(1930)p162

  • 「1830年代発行の英国の著書に描かれた円盤投の図」『Walker’s Manly Exercise<男の訓練>(第6版)』Craven著(1839)p62(Wm S.ORR & Co. Amen Corner Paternoster Row London)
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岡尾 惠市

1960年度卒 立命館大学名誉教授
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