オンライン学会を行いました。

「オンライン学会」リポート

船原 勝英(1974年卒)

OB・OG会主催の「オンライン学会」を2020年12月17日に開催、講師の安田好文さん(1971年卒)が「ランニングと弾性エネルギー」のテーマで最新の研究成果を発表し、その後の質疑応答を含めてみっちり1時間半のお勉強をしました。

会議を準備した船原の「Zoom会議設定」の不手際で、アクセストラブルとなって開講が30分遅れ。安田さんもやや力が入って専門的な実験結果の説明が長くなり、ナイキの厚底シューズや高速スパイクなど最近の長距離界の話題に関する話をじっくりできなかったのですが、参加者からの的確な質問や関連の情報提供で中身の濃いやり取りになりました。

研究の詳細は添付資料を参照していただくとして、従来の研究ではあまり重視されてこなかった足首やアキレス腱、さらにはシューズのばねが記録向上に影響を与えており、今後はさらにこの分野の詳細な分析が求められるというのが安田さんの指摘。全国の大学の研究費が抑え込まれ、単独では大掛かりな研究は難しくなっていることも問題。安田さんは「ランニングの総合的な研究」は筑波大が拠点になってやる以外にない、筑波の研究者にこのことを呼び掛けてほしいと宮下憲OB・OG会長(1970年卒)に訴え、宮下会長も同意していました。

現場からの声としては、近畿大で指導する津田忠雄さん(1975年卒)が「高速シューズにより記録を伸ばした学生はいるが、用具による記録向上に関する心理面での影響が心配」と、スポーツ心理学の大家、市村操一(1961年卒)さんに質問。市村さんは用具の開発による記録の向上とスポーツとの関連は「文明史的な問題」と応じました。

ゴルフなどで用具開発が進んだことに対し、飛距離抑制による“本来のゴルフ”を取り戻そうという働き掛けを帝王ニクラウスらが始めていることを紹介。スポーツ社会学研究者の牧野紀子さん(1975年卒)は、用具が進化した結果「スポーツが細ってしまった」と述べ、主体であるべき人間とスポーツとの関係が危機的な状況に陥っていると指摘しました。

その一方で、近年の用具開発が一般ランナーの日常に寄与していると話したのは中村由紀子さん(筑波1期生)。週2回程度のランニング・ウォーキングを続けているそうですが、ナイキシューズの性能は従来の日本製シューズを凌駕していると言います。右足に不安があったそうですが、ナイキを履いてからは快適なランニング生活になったそうです。

北海道で学生を指導している品田吉博(1974年卒)さんは「久しぶりに崇高なお話を聞くことができました」と感想を述べ、安田さんの講義とその後の参加者のやり取りに刺激を受けたとのこと。現場での指導にも、この種の知見を活かしていくべきと話していました。

発表資料(PDFで開きます。)

関連情報=提供・船原

今季の陸上界はコロナ禍にも関わらず日本記録、世界記録ラッシュとなっています。

12月の日本選手権では男女の10000mで大幅な記録更新があり、世界では男女のハーフマラソン、1時間走、男子5km、10kmで記録が書き換えられ、男子5000mと10000m、女子5000mでそれぞれ世界記録が樹立されました。ほとんどがナイキの厚底シューズと高速スパイクを着用してのものでした。

日本インカレ男子10000mで日本人トップ、全日本大学駅伝アンカーで快走した田澤(駒大)は「スパイクも進化している。10000mを走っても最後まで余裕が持てる感じ。クッション性と反発力のどちらもよくなった」と話しています。

今年1月の箱根駅伝2区(東洋大)で区間新、日本選手権10000mで27分18秒75の日本新を出した相澤(旭化成)は「脚への衝撃が減り、全体的に走りやすくなった。すごく反発をもらえるスパイク」とコメントしています。

箱根駅伝での使用率 全日本大学駅伝での使用率
2018年 27.6%
2019年 41.3%
2020年 84.3%(177人/210人) 93.0%(186人/200人)

 

★最新モデル~「エアズーム・アルファフライ・ネクスト%」(世界陸連の規則で2020年12/01~800m以上のトラック種目は靴の厚さ25ミリ以下に)

★関東学連10000m記録会(11/23)~25ミリ以下のスパイクで実施

自己新率20.8%:48人/231人(ナイキ厚底が8割の2019年は~自己新率50.9%)

厚底OKの2020年の他の競技会では関東学連の記録を上回る記録

★5000mでナイキの高速スパイクを履いた新谷が14分55秒83、広中が14分59秒37

遠藤日向(住友電工)13分18秒99、吉居(中大)が13分28秒31のU20日本新

石田(東農大二高)が13分34秒74の高校新

「エアズームヴィクトリー」「ズームエックス・ドラゴンフライ」

これらの高速スパイクは、厚底シューズの知見を活かして「80%のエネルギーリターンを持つズームエックスフォームにカーボンファイバープレートを装着、ピンが付いた前足部にはエア充填、ソールが薄くなったぶん軽くなり130g(26.5㎝)~厚底シューズの半分ほど」に。⇦ランナーのビッグデータ→足の曲がり方と動き方を考えたデザイン

ニッポンランナーズ(佐倉市)の斉藤太郎理事長によると、アフリカ系のランナーは骨盤が生まれつき前傾しており、自然に前傾したフォームになりやすい。それに対し日本選手は骨盤の前傾が少ないため、つま先が薄くかかとが厚いナイキ型シューズは前傾をしやすくなり、恩恵が大きいと指摘しています。

日本選手でもつま先部分「フォアフット」で接地する選手が増えている感じ。脚への負担が軽減されるため、ハイペースで滑り出しても後半の落ち込みが少ない。近年の箱根駅伝やトラックで、終盤でもハイペースを維持できるのは、やはりこの厚底シューズ、高速スパイクのおかげと言えるでしょう。